第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
「姫さま!!」
遠くから見えるダガーちゃんは眠っているのかぴくりとも動かない。
「おのれ貴様ら、姫さまに何をした!!」
「いつもいつも邪魔ばっかりして、許さないでごじゃるよ!」
「何をしたのかってきいてるんだ!!」
「邪魔者に教えることなんてないでおじゃる! いい加減にするでおじゃる!」
「腹に据えかねるのはこちらの方じゃ!!!」
飛び跳ねながらステージから下りる道化師達に、叫び声をあげたのは意外にもフライヤさんだった。
「お主らにはもううんざりじゃ!! ブルメシアでのこと、クレイラでのこと、許すことなどできぬ!!! 覚悟するのじゃ!!!」
そう言ったフライヤさんは驚くほどの跳躍力でピエロ達に肉薄すると、手に持った槍を力任せに振るう。
それからのフライヤさんは、まるで戦鬼のようだった。
ピエロ達が何かをする前に鋭い槍で穿つ、薙ぐ、切り払う。
俺達が加勢しようにも、その鬼気迫る猛追に追いつけず、ついにはピエロ達は諦めたのか素早い身のこなしで逃げ去ってしまった。
一分にも満たないことである。
「すまぬ、取り逃してしまった。追うか?」
「いや、いいさ。それよりもダガーの元へ行こう」
ライトアップされたステージを上ると、人形のように動かないダガーちゃんの姿があった。
まさか……手遅れだったのだろうか。
「おい、しっかりしろ!! ダガー!!」
ジタンの大声にも反応することはなく、最悪の事態に息をのむ。
そんな、まさか、嘘だ。
否定の言葉ばかりが出てきて、目の前の現実を受け入れられない。
喉がひりつく。
「やっと、会えたってのに……」
「お、おねえちゃん……」
「ううう、姫さま〜〜〜っ!」
「……ダガーちゃん」
なんでだよ、ダガーちゃんは自分の家に帰ってきたんだろ?
なんで身内に殺されなきゃいけない。
かたわらにジタンが膝をつき、その膝をぎゅうと固く握りしめている。
シワの寄ったそのズボンがやりきれない思いをそのまま表しているようで、つられるように俺も手に力をこめた。
「まだ事切れてはおらぬようだが?」