第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
ひどく苦い表情で考え込むジタンがきょろりと漂わせた目線を一点に止めた。
「あのろうそく……何だか気になるな」
「これ?」
近くにいたビビがよいしょと背伸びをして触ると、ガコンという音とともに暖炉が奥へ押し込まれ下へと続く怪しい階段が現れた。
「うわぁっ!」
「こりゃ、いかにも何かありますって感じだ」
「姫さまはこんな所にいるのか?」
そちらに近づいてみれば、階段の先からはひんやりとした空気が流れてくる。
「行ってみよう」
階段を下りてみると何かが動くような重苦しい音がしだいに響いてくる。
行き着いた小さな踊り場から覗いてみれば、そこは大きな筒を縦にのばしたような吹き抜けの螺旋階段だった。
ランタンがところどころについているだけで薄暗いが、響く音の正体はすぐに分かる。
「こんな大掛かりな仕掛け……どうやって動いてんだ?」
「この先におねえちゃんが……」
目の前で地面が規則的に回転していて、先を進むにはこの地面を渡る必要があるように見える。
唾を飲み込む音が聞こえたが、自分のものではなかったらしい。
「びびってんのか? だーいじょうぶ、タイミングを見ればそんなにこわくないって!」
ジタンがビビの背中を強くたたいていた。
眼下を見つめていたビビが顔を上げて深呼吸をすると、ちょうどやってきた足場に飛び乗って一番に対岸へと渡っていった。
(……これじゃあ、怖いなんて言えないな)
次々と渡っていく面々に続いて、俺も動く足場へと飛び乗った。
螺旋階段を下っていく。
響く音からも遠ざかり、辺りが静まってくると覚えのある空気の悪さを感じた。
双子のような赤と青のピエロに捕えられた時のことを思い出していると、奇妙な木製の扉が姿を現す。
お互いに目配せをし合うとジタンが慎重にその扉を開いた。
「……っ! 何しに来たでおじゃるか!?」
響く声の主を見ようとジタンの肩越しに覗くと、部屋は思った以上の大きさだった。
部屋というよりホールと言った方が正しいような空間の奥には体育館にあるようなステージがあり、そこで二人のピエロが飛び跳ねている。
「あれは……!?」
照明のあたるステージに目を凝らすと、そこにダガーちゃんは横たわっていた。