第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
初めに見た時はそりゃあもう目を奪われた。
こんなかわいい子、いるのかって。
夢の中みたいな場所だし、だったら思ったように好きにしようと思って、俺は出会ってそうそう告白した。
こんなかわいい子と仲良くなれるとか、それこそ夢みたいだと思ったから。
動物の耳がはえた人間とか本物の剣とか、正直現実味がなさすぎる。
加えて街の外にはモンスターがいるって……一周回ってどうでもよくなった。
もちろんレイナのことは心配だけど、半分冗談だと思って過ごしていた。
でも……
「姫さま~今行きますぞ~!!」
出会い頭にアレクサンドリア兵を気絶させたスタイナーさんは気合を入れなおすように叫ぶ。
俺たちが脱獄したことに気づいた兵士たちが次から次へと現れるため、さっきから休みなしに戦いを強いられている。
手には使い慣れない剣。
牢屋に押し込まれた時に武器の類は没収されているため俺は少し後ろで形だけ剣を構えて二人の動きを見ているのだが、さすがの二人でも顔に疲労の色が浮んできていた。
「姫さま~今行きますぞぉ~!!」
「黙って戦えないんスか……」
「む……あの梯子を上れば地上である!!」
「……無視っスか」
伝う汗を手首で拭い一息つくとスタイナーさんは梯子に手をかけた。
その横顔は呼吸が乱れているのか鼻息が荒く、目も心なしか血走っている。
なんていうか……必死なんだな、と思う。
少しの間だけどこの人達と一緒にいて感じた。
時には冷たくあしらわれたりしてるスタイナーさんだけど、いつもダガーちゃんを最優先に生きている。
ダガーちゃんはお姫様で、俺は詳しいことはわからないけど、戦争を止めようと頑張っている。
結局捕まってしまったけど。
マーカスさんは仲間を助けようとここまで来た。
皆……この世界で生きてるんだよな。
夢なんかじゃなくて、ちゃんといるんだよ。
強くそう感じてしまう。
「タイチさん、ボーっとしてたら置いてくっスよ!」
そんでもって、俺もこの世界にいるんだよな……。
見上げると二人の姿がだいぶ遠くに見えて、俺は慌てて梯子を掴んだ。