第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
「脱出するのだ!」
スタイナーさんの大声に俺は思考の海から浮上した。
顔をあげてすぐ隣のマーカスさんを見ると非常に怪訝そうな表情をしていたが、たぶん俺も同じ顔をしている。
「本気っスか?」
「このままじっとはしていられないのである!」
「まあ、いいっスけど……」
ここから出たいのは皆同じだろう。
ただ、その方法がないから今までこうしてきたわけで。
「どうやって脱出するつもりっスか」
マーカスさんのもっともな意見にスタイナーさんは鉄製の檻を掴んでみせる。
まさか檻を力づくでこじ開けるつもりだろうか。
さすがにそれは無理だろうし、こじ開けたところでこの高さを降りるのは無茶があるのでは。
と思っていると、スタイナーさんはあろうことか膝の屈伸を利用して檻自体を大きく左右に揺らし始めた。
「うわっ!」
突然のことに体勢を崩して後頭部を思いきりぶつける。
「いきなり何するんすか!」
しりもちをつきながら思わずスタイナーさんをうらめしげな目で見ると、彼は「かたじけない」と檻から手を離した。
「なるほど……考えたっスね」
感心したように言うマーカスさんはとっさにつかまったらしく、俺のように派手に転んではいなかった。
俺だって体幹鍛えてた時期あったのにな。
無様に転んだ自分を恥ずかしく思いつつ立ち上がる。
「それで、揺らしてどうするんですか」
「あそこにぶつけるのである!」
指のさす方を見やれば、そこには見回り用の通路。
通路はこの牢屋をぐるりと取り囲むようなしっかりとした設計になっている、が。
「通路にぶつける! 何を? まさか……」
スタイナーさんは何か問題があるかといった表情で檻をとんとんとたたく。
「城の備品を壊してしまうことになるが、姫さまの命にはかえられないであろう」
いや、心配するべきはそこじゃないだろう。
しかしマーカスさんも特に気にしている様子はなく、この場に味方はいないのだと瞬時に俺は悟った。
「さあ、息を合わせて揺らすのである!! 自分の掛け声に合わせて、右! 左!」
数分後、轟音響く土煙から現れたのは、やたら元気な鎧のおっさんと無表情の盗賊姿の男。
それと今にもリバースしそうな青白い顔の男だったという。