第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
思い出すのは星空だ。
見上げると暗闇にぽつぽつと照って夜の存在を主張しているが、この状況がすっかりお馴染みのものになっていたからか夜特有の高揚感もなくただ歩く。
行先は決まっていた。
ケンカした後、アイツがいじける先はいつも同じ場所だったから。
家から徒歩7,8分。
住宅街にあるにしては多少広い公園にある大きな池。
その池は夜になると大きな口を開けた怪物のような底知れない不気味さが漂うため、近所の人たちはあまり夜にその公園に近づきたがらない。
単純に危険だからっていうのもある。
しかしうちの妹はなぜかその例に漏れるようで、落ちつくと言っては好んでその池に足を運ぶことが度々あった。
自分の部屋があるんだからそこでいじけてくれれば俺がわざわざ外に出る必要もなのにな。
入り組んだ構造ではないので、入り口から公園の中は一望できる。
ぱっと見て、公園に妹の姿はなかった。
池のそばまで足を進めると木製の柵の一部が内側に倒れて水面に浸かっている。
瞬間背筋を冷たいものが走ったが、水深がそう深くないことを思い出し頭がさめる。
「おーい、迎えにきてやったぞ。レイナ、返事しろよ」
この暑い季節に考えにくいが、木の陰にいる可能性も考慮して呼びかけてみるも返答はない。
それから何度か呼びかけるも反応はなかったので、俺はしょうがないと首に手をやりつつ声を張った。
「あー……俺も色々言いすぎた。えーっと、悪かったよ。帰りにコンビニで何か買ってやるからもう機嫌なおして出てこい」
ここまで譲歩してやる自分の寛大さにさすがに出てくるだろうと思ったが、公園内は静かなままだった。
「おいおい、嘘だろ? まさかほんとに池の中に落ちてんのか?」
この公園じゃない場所にいる可能性が全く頭になかったのは、度々ふてくされる妹がこの公園以外にいたためしがなかったから。
池の中をのぞきこむと、水面が淡く青色に発光したように見えて俺はのけぞる。
「はあ!?」
なんだ今の。
それにこの感じ……。
俺はTシャツの胸部分をつかんだまま底の見えない池を見つめた。
そして、俺は……
俺は……