第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
ずっと考えていた。
目の前を流れていく、いかにもファンタジックな光景を眺めながら。
これは悪い夢なんじゃないか、とか。
次の瞬間には目が覚めて、いつもの見慣れすぎた自分の部屋に戻っているんじゃないか、とか。
そんな意味のないことを思っては心の内でため息を繰り返している。
ひんやりとした空気が流れていた。
ここはガルガンステーションだったかで感じた空気と似通っていて、おそらく地下なんじゃないかと俺はあたりをつけている。
それに……
「うぬ〜っ、このようなところに閉じ込めおって! 許さぬぞ、ゾーンとソーンめっ!!」
そう言いながら、目の前でガンガンと檻を金属の拳で殴り続けている全身鎧姿のおっさん、もといスタイナーさん。
そんな彼から視線を下にずらせば、遠くの方に地面が見え、その深さに吸い込まれそうになる。
吊るされて揺れる、巨大な鳥籠のような檻の中。
俺たちは宙吊り型の牢屋に閉じ込められていた。
牢屋であれば地下にあるのが常套だろうな、と考えを巡らす俺だったが、地上にいようが地下にいようがそれはどっちだっていいことだと思い直す。
大事なのはぐるりと周りを檻に覆われているこの状況であり、直径せいぜい3mの範囲内から動けないことだろう。
「こっちは、いい迷惑っス」
「何をぬかすか、勝手についてきおってからに!」
マーカスさんが漏らした言葉にスタイナーさんがものすごい勢いで食ってかかる。
何が気に食わないのか、スタイナーさんはよくマーカスさんにつっかかる。
マーカスさんも割とずけずけとした物言いをするので言っている内容としてはおそらくどっちもどっちなのだが、スタイナーさんが怒るたびに檻が揺れてしまうこんな時くらい言い合いは辞めてほしいと思うのが本音だ。
「だけど大変っスね、ブラネに裏切られてしまって」
「これは何かを勘違いされているのである! 女王陛下は自分を裏切ったりしないのである!」
「まだ、そんなこと言ってるっスか? 知らないっスよ、ガーネット姫がどんな目に遭っても……」
マーカスさんがため息交じりにそんなことを言えば、スタイナーさんはグッと言葉を詰まらせた。
「姫さま〜、いまお助けにいきますぞ〜〜〜っ!」
そんな雄たけびのような声に、再び牢屋は大きく揺れた。
