第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
no-side.
最も眺望の良い席に遠慮なく座り扇子をあおぐ。
その人物はアレクサンドリアの女王、ブラネだった。
周りを囲む兵士たちの中から一人近づく者に気づき、ブラネは顔だけで振り返る。
「おおベアトリクス将軍、例のものは手に入れたか!?」
「はっ、お望みの品はこちらでございます」
ベアトリクス将軍と呼ばれた兵士は手に持った宝石を差し出す。
それを奪うように取るとブラネは頭上に掲げた。
「おおっ、これじゃこれじゃ! ふははは、これさえあれば、これさえあれば!」
しばらく日の光に透かしたり手の中で転がしたりして宝石を堪能していたブラネだったが、何かを思い出すように表情を改める。
「いやいや違うぞ、あともうひとつ! もうひとつ、宝珠をそろえなければ!!」
一連の流れを横で見ていたベアトリクスは自嘲気味に口の端をゆがめる。
「何のねぎらいの言葉も無し……か、ふふふ」
小さく呟かれた言葉はずいぶん虚しく、そのことに気づいたベアトリクスはもう一度口元を歪めた。
「ベアトリクス将軍よ! はやく、あとひとつの宝珠を見つけ出すのじゃ!」
「……分かりました…………ところでブラネ様、ガーネット姫のお体のほうは大丈夫ですか?」
「ガーネットか……ガーネットの体からすべての召喚獣を抜き出した後はあの小娘は、もはや用無しになるな!」
「ブラネ様、それはどういうことですか?」
「ガーネットは宝珠を盗み出した罪で処刑する!!」
「いま、何と?」
「ええい、何度も言わせるな! このレッドローズがアレクサンドリアに到着したら、ただちにガーネットは処刑すると申したのじゃ!」
耳を疑うような主の言葉にベアトリクスは思わず言葉を失った。
ベアトリクスにとってブラネ女王は主君にあたるが、ガーネット姫もまた自分の使えるべき主であり守るべき方である。
それは、あなたにとっても同じはずでは…………。
「おまえは、はやくあとひとつの宝珠のありかを探し出せ!!」
「ブラネ様……」
目の前で再び宝石を掲げたブラネは狂ったように笑いはじめる。
ベアトリクスは、それを愕然と見ていることしかできなかった。