第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
ビビside.
改めて周りを見渡してみると、ここは飛空艇の甲板だった。
揺れる足元に、響くプロペラ音。
ボク達が物陰に隠れていると、すぐ近くの階段の上から扉の開く音が聞こえた。
「ベアトリクス様、お疲れ様でした」
ベアトリクスという単語にボクらは耳をそばだてる。
「ブラネ様は、どうしておられますか?」
「ブラネ様はベアトリクス様のお帰りを心待ちにしておられます」
「さぞや、勝利の賛嘆をあびせられることでしょう!」
「もはやスタイナーの率いるプルート隊なんて目じゃないですね!!」
「無駄口をたたくのはよしなさい!」
「す、すみません……」
おそらくベアトリクス将軍と兵士達の会話だったのだろう。
「ブラネ様には、いますぐお伺いしますとお伝えください」
そんな声が聞こえると、パタパタと数人の足音が遠ざかっていった。
どうやらこの船にはブラネ女王も乗っているらしい。
たぶん同じことを思ったのだろう、ジタンと目が合った。
「どういうことだ……」
深く息が吐き出される。
ベアトリクス将軍のものだ。
「なぜブラネ様はクレイラを街ごと消滅させる必要があったのだ……なぜブラネ様は召喚獣や黒魔道士なぞを使われる……私は、このようなことのために技を磨いてきたわけではなかったはずなのに……」
一人呟かれる言葉にボクは身じろぎした。
聞いちゃいけないことを聞いてしまったような居心地の悪さ。
足音が再び階段の上から響く。
「黒魔道士ども、こっちへ来なさい! おまえたち三体はテレポットを使って先にアレクサンドリアへ戻り、城の防衛にあたるのです」
足音は階段を下ってボク達のすぐ横を通り過ぎる。
「私は、あのような心を持たぬ者たちと同じ働きしかできないのか……これでは行方をくらましたスタイナーのほうがいくらかましではないのだろうか……」
それからしばらくして、辺り一帯から足音も人の気配もなくなるとジタンが立ち上がった。
「おい、聞いたか? どうやらブラネも、この飛空艇に乗っているらしいぜ」
慎重に階段の上を伺うジタンが振り返って手をこまねく。
隣のフライヤを見てみると、まだ考え込んでいるようではあったけどその表情はさっきとはまた別のものに見えた。