第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
ビビside.
「ひえぇ、命ばかりはお助けを……!」
声がする方を見れば、大祭司が喉元に剣を突きつけられている。
「ふっ、なさけないネズミどもよ!」
いつの間にここまでやってきたのか。
剣を突きつけている人は、軽く髪を揺らすとハープに付いた赤い宝石を奪い取る。
凛とした佇まい。
片目を額あてで隠したその人は、アレクサンドリアの女剣士、ベアトリクス将軍だった。
ブルメシア大聖堂で完膚無きまでにやられた記憶は新しい。
「おまえたちには、この宝珠を持っておく資格はありません!」
「そ、その宝珠は!」
大祭司の悲痛な叫びは届かず、ベアトリクス将軍は素早い動きで出入り口へ向かった。
「この宝珠さえ手に入れば、もうこの街などに用は無い!」
「待て!」
素早く反応したジタンに続いてフライヤが、その後をボクも追いかける。
「逃げる気か、ベアトリクス!」
大聖堂をちょうど出た所。
ジタンが放った言葉にベアトリクス将軍は立ち止まる。
「逃げる? いま逃げる気かと言ったのですか? ふふっ……ブルメシアで私に負けたことをお忘れになったわけではないでしょうね?」
振り返ったベアトリクス将軍はそう言うと、挑発的に笑った。
もちろん、忘れるわけがない。
兵を率いて街の人達を襲ったことも、建物をめちゃくちゃにしたことも。
ボク達は忘れることができないだろう。
「なにを申すか! あの時、とどめを刺さなかった自分を悔いるのじゃ!」
「ボクも許さないっ!」
「この街の甘い砂で特性ケーキを作っても、おまえには絶対食べさせてあげないアルね!」
握っていた杖に自然と魔力がこもった。
各々の武器を取り出すボクらを見て、ベアトリクス将軍も鞘から剣を引き抜く。
「それでは、あなたがたのお望みの通りにして差し上げましょう!」
その言葉が言い終わるのが速いか遅いか、ジタンが素早い動きでベアトリクス将軍の懐に潜り込んだ。
それを難なくさばくと、近づくフライヤの槍を弾き飛ばす。
ボクとクイナの魔法が将軍の体を包んだが、次の瞬間には将軍の放った剣技で逆にボクらが吹き飛ばされる。
やっぱり、強い。
造作もないことだと言わんばかりに、将軍は笑みを浮かべると、声高々に言った。
「宝珠は私があずからせてもらいます!」