第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
ビビside.
フライヤは恋人を探すために旅をしていた。
それはボクも聞いていた。
「フライヤの恋人って、あんな人だったんだ……」
大聖堂内、ボクは奥へと続く道に視線を向ける。
そこに扉はなく、わずかに話し声が漏れている。
さきほどボクらを助けてくれた男の人はどうやらフライヤの恋人だったらしく、フライヤのあの表情はずっと探していた恋人を見つけたからだったんだ、とボクはひとり納得した。
はじめは信じられないというように目を見開き、次には心底嬉しそうに目を細める。
こんな時ではあるけど、ボクまで温かい気持ちになった。
そんなことを考えていると、ボクのすぐ隣を誰かが走り抜け、そのまま奥の通路へと消えていく。
「今のは……パック?」
ボクに初めてできた友達。
クレイラで再会してからまだちゃんと話せていない。
パックを追いかけるように、ボクも慌てて通路へ走った。
部屋に入るとすぐにパックの姿は見つかった。
ボクが話しかけようとすると、一つ手を振り、再び部屋の外へ飛び出す。
「これ、待たぬかパック! 久しぶりに会ったと申すに!」
ブルメシア王のそんな声にも振り返らず、あっという間にその後ろ姿は消える。
話しかける暇もなかった。
肩を落として落ち込んでいると、ふと部屋の空気が重いことに気づいた。
フライヤが恋人と再会できて、てっきり明るい空気に包まれていると思っていたのに……どうしたんだろう。
見てみれば、フライヤが一番つらそうな表情をしている。
「……もしかして、泣いてるの、フライヤ?」
ボクがその顔をのぞきこめば、フライヤはおもむろに肩を震わせる。
「フフフフフ……おもはゆいのう……幾度となく夢に見た男にやっと出会えたというに……その男は私のことをこれっぽちも覚えておらんかったのじゃ!」
もう一度部屋を見渡してみたけど、そこにさっき助けてくれた男の人の姿はなかった。
そんな……。
気持ちを押し込めるように口を引き結んだフライヤは、立ち上がって言う。
「さあ、ジタン! まだ敵の手が休まったわけではなかろう! 今一度、態勢を立て直すのじゃ!」
「フライヤ……」
ジタンが口を開きかけたその時。
「ひえぇぇぇっ!」
部屋につんざくような悲鳴が響いた。