第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
白い空間にいた。
見てみれば体も地球の頃に戻っている。
この感じは久しぶりだ。
この世界に来た頃は何度かあったけど、思えば最近は全くなかった。
それからゆっくりと、さっきのことを反芻(はんすう)する。
意識を失う前に感じた程の強烈な恐怖はないけれど、慢性的な不安がまとわりついていた。
嫌だな、この感じ。
ぞわぞわする。
「お目覚めかい、プリンセス」
後ろを向くと例の男がいた。
銀髪をなびかせ、なぜか白い空間をコツコツと歩いてくる。
私の体はぷかぷか浮かんでいるんだけど……この空間はどうなっているんだろう。
「ふーん、それがキミの姿? ……思ったより普通だね」
「普通って……」
普通の一般家庭から生まれたんだから、そりゃそうだ。
私の周りにいる人達が美形すぎるだけだ。
目の前で顎に手をあてているこの人だってそう。
男だとは思うのだけど、なんて言うか、美人なのだ。
頭に羽飾りなんて付けちゃって……そんなのが似合うのはあなたくらいですよ。
「いやごめん、気を悪くしないで。ただ僕らみたいな選ばれた存在にそんな平凡な姿は似合わないと思っただけで……いやわかってる、だからお姫さまの体にいたんだよね?」
気づくと男がすぐ目の前に立っていた。
見上げると、その頬はなぜか興奮に染まっている。
「えっと……?」
本能的に後ずされば、彼が一歩また近づく。
「ああ怖がらないで、わかってる、わかってるよ。キミもなんだよね? 僕も同じなんだ。だからわかるよ」
そう言ってふわりとしゃがむと、私の髪をひと房つかみ、そこに軽い口付けを落とす。
「キミは何も心配しなくていい」
それだけ言うと、おそらく何か大きな誤解をしているだろう彼は、踵を返して遠ざかっていった。