第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
男が目を瞬かせる。
「まさか! こんなことが!」
それから勢いよく頭を引くと、再び目を見開いた。
なんだか面倒なことになりそうだ。
私はもう一度掴まれている腕を思いきり引いてみるけど、男の腕はびくともしない。
「ガイア人の体、しかもお姫さまの体にもう一つの魂が……自然に生まれた? いや、入り込んだ可能性も……」
ぶつぶつと呟かれる言葉に私は焦る。
「いいかげん、はなして!!」
腕から逃れようともう片方の手も使っているのに、びくともしない。
この細腕のどこにそんな力があるんだろう。
相手は考えにふけるように目を伏せている。
気持ちが焦る。
気がかりがもう一つあった。
(なんで、もう眠気がきてるの……)
まぶたに重さがかかる。
それは私が内側に沈むサインでもあった。
どんどん、短くなっていく。
存在できる時間は残りわずかなのかもしれない。
私、どうなるんだろう。
体も何もない。
このまま消えてなくなるのかな。
いつものように眠りについて、浮かび上がらない。
深く、深く、沈んでいく。
ダガー……
この世界にきて、ずっと迷惑をかけてきた。
私は彼女に何かできただろうか。
彼女は私に感謝の言葉を言ってくれるけど……私は何かした?
今だって、この男から逃げる手立てを思いつくこともできない。
バカみたいに腕を引っ張るだけ。
ほんと、バカみたいだ。
私の人生ってなんなんだろう。
特に何をするでもなく、漫然と生きて、人に迷惑をかけて。
もっと……誰かのために……そう、ジタンみたいに、誰かの力になれるような人生を送れたらよかったのに。
「なるほどね」
目の前の男が一つ頷いた。
そして、ゆっくりとした動作で、引っ張っていた私の腕をほどくと、こちらに手をのばす。
とんっと胸に手を当てられたと思うと、
全身が震えた。
「……いやっ、なに!?」
体の奥の奥がものすごい熱をおびる。
壮絶な不安がやってきて、瞬間、死を感じた。
「やめて、やめてよ!!」
そんな、本当に死ぬなんて。
覚悟なんて全然できてない。
ダガー、ごめん。
ふわりと意識が遠くへ飛んでしまう直前になっても、私は後悔することしかできなかった。