第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
暗闇に落ちていった意識は、思いもよらずすぐに浮上した。
これはあれだ。
きっといつものやつだ。
眠ってしまったダガーと意識が入れ替わったんだ。
「ゾーン、ソーン! すぐにガーネットから召喚獣を取り出す準備に取りかかるんだよ!」
ブラネ女王の声が聞こえてきて、ふわふわしていた意識は覚醒する。
今、なんて言った?
ダガーからショウカンジュウを取り出す?
「ふんっ、小生意気な小娘が!」
身じろぎせずに息を潜めていると、複数人の足音が遠ざかっていく。
やっぱりか。
自分の娘に対する言葉と思えないような言葉に悲しくなる。
ダガーが聞いていなくてよかった。
とにかく、このままここにいたらまずいだろう。
今もこの体は誰かの腕に抱かれているけど、なんとか逃げ出さないと。
足音から、ブラネ女王とゾーンソーンはこの部屋から出ていったと思う。
とすれば、この部屋にいるのはあの銀髪の人だけ。
逃げられるかな……いや、やるしかない。
何か攻撃系の魔法を使えたらよかったんだけど、残念ながら使うことはできない。
私は目を開けると勢いよく相手を突き飛ばした。
「……っ」
つもりだったけど、私が少し後ろに下がっただけですぐに腕を掴まれる。
「ん?」
目を瞬かせ小首を傾げた男が、こちらをぐっとのぞき込む。
近づく顔。
化粧をしているのか目尻が赤く色づいているのが目に映える。
その目がこれは驚いたというように見開かれた。
「……ずいぶんお早いお目覚めだね、プリンセス。もう少し眠っていてくれないと困るんだけど……僕の魔法がかからなかった? そんなはずは……」
男がひとり言を呟きながらこちらをじろじろと見てくるため、私はぐっと唇をひき結んで考える。
失敗した。
突き飛ばすだけじゃ逃げられなかった。
だったらどうしよう、もうひと暴れしてみようか。
そう考えをまとまると、男の目がゆっくりと細められ、私の腕を掴む手に力が入った。
「キミは誰だ?」
「……っ」
本能的にびくりと体を揺らしてしまう。
「……ガーネット、ですわ」
自分から尋ねてきたくせに、私の答えなど聞いていないように男はさらにぐぐっと目を細めた。