第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
周りにちらりと視線をさまよわせた。
開いた窓に、揺れるカーテン。
天蓋付きベッド。
目の前には品のいいティーカップ。
香りの良い紅茶のようなものが入っている。
私が初めてここに来た時から変わっていない。
ダガーの、ガーネット姫の私室だ。
戻ってきたんだ。
少し安心するような……懐かしさを感じた。
ダガーがため息をつく。
「お母さまは、きちんとわたくしの話を聞いて下さるかしら?」
『そりゃあ、もちろん……!』
反射的に言って、私は言葉に詰まってしまう。
もちろん聞いてくれる……なんて簡単にはいかないんだろうなぁ。
ブルメシアが襲われた。
黒魔道士兵達によるものだという。
それは誰が手引きしたのか。
おそらく、ブラネ女王様によるものなんだろう。
だから私達はアレクサンドリアに戻ってきた。
ブラネ女王を説得するため。
だけどそれは上手くいくのか。
ダガーはもう一度深く息をはいた。
『それにしても、まさかブラネ女王の方から来るなんてね。少し意外じゃない?』
「そうかしら……お母さまは今までもわたしを城に連れ帰そうとしてきたわ、どうしてだかはわからないけれど……今さら驚くようなことでもないわ」
『でも、スタイナーまで捕らえる必要ある?』
「そうね…………何にせよ、お母さまと一から、ちゃんと順序を追ってお話ししなければいけないわ」
ダガーは自分を落ち着かせるように目の前の飲み物に口をつけた。
そんな時である。
ノック音もせずドアが開いた。
「ブラネ様がお呼びでおじゃるよ!」
「おまえを連れていくでごじゃる!」
顔を見せたのは辟易するようなピエロ顔。
バタバタと部屋に入ってきた彼らにダガーは立ち上がる。
「あなたたちっ!! 宮廷道化師の身でありながら、わたくしをおまえ呼ばわりするのですか!!」
「うるさいでおじゃる!!」
「連れていくといったら連れていくでごじゃる!!」
子どもが駄々をこねるように手足をばたつかせるゾーンとソーンに、ガーネット姫に対しての敬いなどなかった。
「とにかくブラネ様がお呼びでおじゃる!」
「とにかくブラネ様がお呼びでごじゃる!」