第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
ジタンside.
「フライヤ様、これから古来より伝わる砂嵐の力を強めるための儀式をとり行いたいと思います」
普段よりも少々豪華な服を着た踊り子のお姉さんが声をかけてきた。
いよいよ始まるみたいだな。
「クレイラを取り巻く砂嵐の力を強めれば敵もあきらめて帰ってくれることでしょう」
このままアレクサンドリアもあきらめて帰ってくれればいいのにな。
それはかなり楽観的な考えだろう。
オレはそう思いながらフライヤを見た。
彼女は何に思いをはせているのか、その手を握りしめると振り返った。
「ジタン、私はブルメシアを守ることができなかった……もうこれ以上、ブラネの思い通りにはさせたくないのじゃ!」
フライヤと初めて会ったのは2年くらい前のことだ。
恋人の行方を追って旅をする当時の彼女は正直見ていて痛々しく、恋人を探すことでやっと自分を保てているように見えたけど……。
「フライヤ、なんだか変わったな……初めて会った頃は、そんなに強い心を持った奴だとは思わなかったぜ」
「フラットレイ様が願ったブルメシアの平和はついにかなえることができなかった……いまの私にできることは、この美しいクレイラを守ることのみ……」
フライヤの中でも、何かが変わってきている。
「クレイラを守ることは、きっと、フライヤ自身のためにもなると思うぜ……」
「自分自身のため……」
ハープの美しい音色が流れる。
古来から伝わると言われる踊りは力強いものだった。
乱れることなく足を踏み鳴らし、音に合わせて隣の者と手を合わせる。
フライヤはいつもの戦闘服のままだったけど、他の巫女に劣ることなく華やかに踊った。
その表情はどこかすっきりしていたように見える。