第9章 眠らない街~トレノ~
どくん、と心臓が跳ねた。
もちろんこれはダガーの感覚。
ぎゅっと握った手は冷や汗に濡れている。
「心と体は引き合うものですから、その時に残るのはおそらく姫さまの心でしょう」
ダガーは静かに息を吐き出すと、声を出した。
「……このままだと、レイナの心が消えてしまうということね」
「そうなるのではないかと……しかし、レイナ殿は本来であればすでに亡くなっている存在。それが自然なこととも言えます」
「でもレイナは今わたしの中にいる……このままいなくなってしまうなんて……トット先生、何か方法はないの?」
「そうですね…………レイナ殿にはまず体が必要でしょう」
「レイナ自身の体ね? でも、空から降ってきた時の体はもう……」
「ええ、でしたら新しい体を用意しなくてはなりません」
「新しい体って……」
そんな簡単に手に入るわけがない。
それぞれの心と体は過不足なくペアになっているのだから、それに余りなんてないのだ。
三人ペアなんてものは許されない。
相棒をなくした私はいったいどうすればいいのだろう。
「ないのであれば、つくりましょう」
つくる?
それって人造人間ってこと?
「わたくしは専門と離れていますので自信はありませんが、幸いビショップ家にはわたくし以外にも何人か学者がおります。その中に生命に詳しい者もいるやもしれませぬ。その方にかけ合ってみましょう」
「……それなら、レイナは助かるのね?」
「そうとは言いきれませんが……可能性はなくはないかと」
助かる可能性がある。
それだけで十分だ。
「すぐには無理ですので、アレクサンドリアに戻り女王とのことが一段落しましたらもう一度トレノへ来てくださいませ。その間に、わたくしの方で色々と調べておきます」
「トット先生……ありがとう」
「そのようなお言葉……わたくしこそ、姫さまのお役に立てて嬉しゅうございます」
そう言って、トット先生は深々と頭を下げた。