第9章 眠らない街~トレノ~
ダガーはこれまでの経緯を話した。
家出をしたことやリンドブルムでのこと、今再びアレクサンドリアに戻ろうとしていること、それからダガーは私のことも話してくれた。
トット先生は口をはさむことなく、うんうんと頷きながら聞いてくれる。
「なるほど……そういうことでしたか……女王はもうそこまでの……しかしレイナ殿の話は正直信じられませんな」
「でも本当なの」
「……分かりました、姫さまの言うことです。信じましょう……ではまず先にアレクサンドリアのことですが、私に少し考えがあります。危険かとは思いますが、姫さまをアレクサンドリアまでお送りすることにいたしましょう」
「どうやって?」
「それは後ほど説明いたします……それで、レイナ殿の話ですが……人格だけが姫さまの身体の中に……その、今わたくしと話しているのは姫さまとのことですが、レイナ殿と言葉を交わすことは?」
「一度眠れば自然と身体の主導権が移る仕組みになっているみたいなの」
「ふむ……睡眠で……」
トット先生はぶつぶつと呟きながら腕を組む。
「空から降ってきたレイナ殿の身体はすでに亡くなっておられる…………では、とりあえずわたくしの考えを述べます」
トット先生は考えがまとまったのか、俯けていた頭を持ち上げてこちらを見た。
まさか、この状況の打開策が?
期待に胸が膨らむ。
「人というのは誰しも、体と心それぞれを一つずつ持っているものです。体と心は密接に繋がっており、それらは過不足なく存在している。しかし今、姫さまの体には心が二つある。これは限りなく不自然なことです。物事というのは自然な方向に流れるもの……ですから私が考えますに、姫さまの中にある心は、そう遠くないうちに一つに戻るのではないかと思われます」
「えっと……つまりはどういうことなの?」
「ええ、ですから要するに……近いうちに、お二人のどちらかがいなくなる可能性が高い、ということです」