第9章 眠らない街~トレノ~
「トット殿! お元気そうでなによりであります!」
「おお、そう言えば、先ほどはスタイナー殿も御一緒でしたな」
「は! 騎士としてあるまじき行為であったと猛省するばかりであります!」
スタイナーはついさっき、貴族の家に盗みにはいったことをそうとう悔やんでいるのだろう。
びしりと手を額に掲げた。
素晴らしき敬礼である。
騎士の鑑と言えよう。
「あいかわらずまじめなお方だ……やむにやまれぬ事情があったのでしょう、あえてその理由を問うことはいたしますまい……」
トット先生はしきりにうんうんと頷くと、傍の机に視線をやる。
「それよりも、お探しの白金の針をそこの箱に準備いたしましたので、どうぞ御自由にお使い下さいませ」
見ると、机の上には何かの箱が乗っている。
「それじゃあ、これはもらっておくっス」
いち早く動いたマーカスがその箱を開けて中身を確認する。
どうやら問題はなかったようで、マーカスは蓋を閉めて箱を懐にしまった。
「この無礼者! 礼ぐらいまともに言えんのか!」
「まあまあ、スタイナー殿、かまいませぬでな……」
トット先生が気にしていないという風に首を振ると、マーカスは軽く会釈をした。
トット先生はそれを見て微笑む。
なんだか、包容力のある笑みだ。
トット先生って、きっと家庭教師としても優秀だったんだろうなぁ。
私がそんなことを考えていると、我関せずとしたダガーが部屋のある物に視線を向けた。
「トット先生、これは……ガイア儀?」
「そう、わたくしたちの暮らすこの星を模したもの……ガイア儀ですな」
なんと、部屋の隅に直径二、三メートルはあるだろう、球体の模型があった。
球体は中に入れるようにか、少しだけ欠けている。
「トット先生に教えてもらったものね」
「覚えておいででしたか、わたくしのつたない話などを……」
嬉しそうに視線を下げたトット先生はその模型、ガイア儀に近づいた。