第9章 眠らない街~トレノ~
「……ま、まさか!!」
「お久しぶりです……トット先生」
トット先生……なんか聞いたことのある……。
「ひ、姫さま! ガーネット姫さまではありませぬか!」
トット先生と呼ばれた人は、どうやらダガーと顔見知りの仲だったようで、それを見たスタイナー達も姿をみせる。
「まさか、トット殿とは!」
「誰っスか?」
「トット殿は、姫さまの家庭教師をなさっていた、それはそれは高名な学者殿なのである!」
やっぱり学者さんなんだね。
見た目通りだ。
「そのむやみにかた苦しい口調はスタイナー殿ですな? お静かに……店の者が目を覚ましてしまいます。しかし姫さま、どうしてこのような場所へ……」
「話せば長くなるのだけど……いろいろあって……白金の針を探してるの」
「決して欲のために盗みを働こうなどと考えたのではありませぬぞ! あくまでやむを得ぬ事情のため……」
スタイナーが慌てて弁解していると、その声が大きかったのか、階段の奥から「誰かいるのかい?」と声が響いた。
思わず私達は固まる。
「ここはひとまずお逃げなさい! 白金の針は後でお渡しいたします。トレノ入口より左にすすむと回廊が続き、突き当たりまで行くと大きな塔がございます。そちらがわたくしの住む家です! カギを開けてお待ち申し上げておりますので後ほど!」
トット先生はそこまで一息に言うと、私達を急かすように手を揺らした。
「わかったわ、ここはひとまず戻りましょ! じゃあトット先生、ありがとう……また後で!」
トット先生……。
元来た道を急ぎ足で戻りながら、どこかで聞いた名前だけどどこで聞いたんだっけ、と私は首をひねっていた。