第9章 眠らない街~トレノ~
スタイナーside.
船は人目を避けるように、建物の陰をゆっくりと進んでいく。
ライトアップされた建物達は華々しく、目に美しい。
いったい自分は何をやっているのか。
盗賊どもにくみするようなまねまでして、こんなこそこそと……。
先ほどから、そんな思いばかりが浮かび上がってくる。
しかし頭を振ってそんな考えは追い出す。
耐えるのだ。
姫さまをお守りし、アレクサンドリアにお届けするのが自分の任務であり、それこそが自分のすべきこと。
ならば、今は耐えるしかない。
船に設置された椅子に座っている姫さまは、何かを考え込んでいる様子だった。
……姫さまはブルメシアを襲ったのが女王陛下だと思ってらっしゃる。
女王陛下がそんな非道なことなど、なさるはずがないのに……たとえそうだとしても、きっと何かお考えがあるに違いないのだ。
これはきっと思い違い。
姫さまが城に戻れば解決することなのだ。
船は光を迂回するように橋の下をくぐった。
カードスタジアムのシルエットが水面で揺れている。
こちらとは別世界のように賑やかな街の様子をぼんやり眺めていると、あの男の声が蘇った。
──自分、自分て言いながら、自分のねえ奴だな……
……自分がない?
いやいや、そうではない、と首を振る。
あさはかな自分などには女王陛下のお考えなど理解できるはずもない……盗賊ふぜいの言葉など気にすることはない。
自分にできることといえば、ただ姫さまをお守りして、アレクサンドリアに戻る。
それだけのこと。
そうだ、もうあいつに会うこともない。
揺れる金色の尻尾。
癇に障る飄々とした態度。
考えてみれば、姫さまが盗賊どもとこうして行動をともにしているのも、すべてはあいつのせいだと思えてきた。
そうだ、あいつがいかんのだ……あいつが……。