第9章 眠らない街~トレノ~
「お待ちくださいませ!
賊どもの申すことなど罠などあるやもしれませぬ!
それに、姫さまのような高貴なお方が盗みをはたらくなど……
そのようなことが女王陛下のお耳に届きましたら……」
スタイナーの説得には応じず、ダガーはマーカスに続いてずんずんと建物奥へ進む。
建物は入ってすぐは宿泊施設のようだったけれど、続く階段を下りていけば船着場が姿を現した。
「お姫さまがいいのかい? 他人の家に忍び込むようなマネをして……」
「あなたたちが余計なものまで盗まないように見はらなきゃね。さ、タイチも行くわよ」
「なんかいいのかな、俺までついてって」
水面に揺れるボートに乗り込むと、マーカスは岸にくくりつけていた縄をほどいた。
「それじゃ行くっスよ」
「自分も同行するのである! 貴様らが姫さまを悪の道に連れ込まぬよう、監視することがこのスタイナーのつとめなのである!」
追いかけてきたお兄ちゃんとスタイナーを見て、マーカスは「もう勝手にしてくれ……っス」とため息をついた。
「全く、おつとめ御苦労なこったな……」
そう言って、のんびりとこちらに来るのはバクーだ。
どうやら彼は一緒に来ないらしく、岸からこちらを見る。
「が、おまえさん、自分自身がいったい何がしたいのか、考えたことはあんのかい?」
ちょうど船に乗り込んだスタイナーは、船を揺らしながらバクーを振り向く。
その額にはムッと皺がよっている。
「貴様このスタイナーをバカにするのであるか!? 自分は姫さまをアレクサンドリアに……」
「ちったあジタンと一緒に行動して、おまえさんも変わってるかと思ったが……自分、自分て言いながら、自分のねえ奴だな……」
「な、なにを!?」
「いいから、行きましょう」
ダガーはスタイナーの声を遮り、マーカスに目配せをする。
それに軽く頷いてマーカスが応えると、ゆっくりと船は動きだした。