第9章 眠らない街~トレノ~
一度例のひったくりの消えた道まで戻ると、私達はその薄暗い道を進む。
さっきいた酔っ払いはまだ地面に座り込んだままだった。
細道を抜けるとそこそこの広さの通りに出る。
水辺の道とは道一本違うだけなのに、ずいぶんと様子が違う。
どの建物にもガタがきているのがちらっと見るだけでもわかった。
「ヘブションッ!」
「あ……」
あれは……劇でレア王役をやってた……。
「お? お姫さまじゃねえか」
大きな身体に額にはゴーグル。
彼はこちらに気づくと、もう一度くしゃみをした。
「久しぶりね……バクーも白金の針を?」
「……なんでお姫さまが白金の針のこと知ってんだ?」
「それは……」
すぐ近くの建物のドアが開いた。
中からはマーカスが顔をのぞかせる。
「ボス、準備が……ってお姫さまもいたっスか」
「マーカス!」
「ちょうどいいっス。白金の針を取りに行くてはずがととのったっス」
「そう! これでブランクを助けられるのね! それで……いつ行くの?」
「今すぐでもいいっスけど……やっぱりついてくるんスね?」
「もちろんよ!」
「姫さま!! お待ちくださいませ!」
スタイナーの静止の声に振り向かず、ダガーは「こっちっス」と言うマーカスに続いて建物内へ足を進めた。