第9章 眠らない街~トレノ~
「こちらにそのような商品は持ち込まれておりませんね」
「そうですか……」
オークショニアの綺麗なお辞儀を受けて、私達はオークション会場を後にした。
さすがにここまで白金の針について情報が掴めないと、少し疲れてくる。
「ここにもないとなると、白金の針っていうのはどこにあるんだろうな」
水辺沿いの道もオークション会場前の広場で行き止まりとなっている。
次はどこに行こうか、と悩んでいればどこからか聞き慣れた音が響く。
このガシャガシャと金属の擦れ合う音は……。
「姫さま、ここにおられましたか!」
スタイナーだった。
駆け寄ってきたスタイナーは私達の目の前までくると、ゼエゼエと肩を上下させる。
呼吸の仕方を見ても、ダガーを必死に探していたことが伺えた。
「心配いたしましたぞ、もし姫さまの身に……」
「スタイナーの小言に付き合ってたら白金の針のありかも探せないわ」
「何というおっしゃりよう……」
「でもどうやらここには白金の針はないらしいわ……ところでマーカスは?」
スタイナーはようやく息を落ち着かせると、膝に付いていた手を下ろした。
「存じませぬ……」
「マーカスが、もうありかを見つけてるかもしれないわね」
そういえば、これだけ歩き回ったのに、マーカスには一度も会っていない。
まあ歩いたといっても水辺周辺だけだけど……マーカスは今どこにいるんだろう。
「さっきの道行ってみるか」
「そうね」
話はまとまり歩きだすと、ダガーは振り返る。
「あれ、行かないの? また先に行っちゃうわよ」
「……は! と、とんでもございません! 自分もおともいたしますであります!」
勢いよく背筋を伸ばしたスタイナーは、ガシャガシャと鎧を鳴らしてダガーを追いかけた。