第9章 眠らない街~トレノ~
聞き込みは難航していた。
道行く人に尋ねてみても、白金の針を知っている人は誰一人いない。
「また何か大きな建物が見えてきたな」
遠目から見るとまるでお城のような佇まいであるそこは、近づいてみれば入り口に警備兵まで立っているんだから驚き。
よっぽどの施設なんだね……もしくは大豪邸とか?
ちょうどタイミング良く中から人が出てきて、私達は耳をそばだてる。
「どーしてあんな物5000ギルも出して買うの!?」
「ほ、欲しかったんだよう……」
何かのお店かな……と考えていると、ダガーが警備兵にずんずん近づいていく。
相変わらず物怖じしないなぁ。
一切躊躇いがないのだから感心してしまう。
警備兵の人いわく、ここはキング家主催のオークション会場らしい。
各所から集められた物品を競って落とすのだとか。
「ここだったらもしかしたら白金の針が手に入るかも……」
驚くことにオークション会場には私達でも入れるということだったので、さっそく入ってみると、そこは思ったよりも明るい雰囲気だった。
ホール奥の台座にオークショニアがいて、観客席のような場所に座った人々が手を上げて金額を提示する。
提示される金額はすぐに高騰していき、けっこう熱気がある。
「ん?」
ふと、ダガーが二階席にいる男に目をとめた。
長い銀髪をたらした、中性的な顔の男だった。
ダガーがその男からしばらく視線を離さないので尋ねてみると、『どこかで見たことがある気がして……』と首をひねっている。
うーん、私は見覚えがないし、私が来る以前の話かな。
男がこちらを見た。
目が合って、くすりと笑われた気がする。
『やっぱり知らない人なんじゃない?』
『うーん……そうなのかしら』
やがて銀髪の男が奥に姿を隠しても、ダガーは首をひねったままだった。