第9章 眠らない街~トレノ~
おばあさんは他のデザインのメイスも色々持ってきてくれたけれど、お兄ちゃんがその中から選んだのは野球のバットに一番近いものだった。
今まで十年近く振ってきたものに近い方が扱いやすいと考えたのだろう。
お勘定の段になってダガーがお金を取り出すと、おばあさんは「あんた、早く強くなってまた挑戦しにきなさいよ」と笑った。
「借金が増えてく……」
「そのうち返してくれればいいのよ」
「そのうちって言ってもなぁ」
「タイチの武器は買えたから、後は白金の針とアレクサンドリアへの移動手段ね……あ、あの人に聞いてみましょう」
広場で犬を散歩させているおじいさんがいたので、ダガーはさっそくと近づく。
「あの……すみません、この街に白金の針っていう……」
「なんじゃと? うちのばあさんは3年前にポックリいってもうたがのう……」
ん?
聞き間違えたのかな……。
おじいさんからずいぶん見当違いな答えが返ってきて、私達は首をひねる。
「……いや、そうじゃなくって、どんな石化した人も治るっていう……」
「ほう、そりゃお気づかいありがとうございますじゃ。おかげさまでわしゃピンピンしとりますでな」
そういって、おじいさんは杖を上下させながら笑った。
ダガーとお兄ちゃんは黙る。
「あの……どうも、ありがとうございました……」
ついに根負けしたダガーはおじいさんにペコリとお辞儀をして、そそくさとその場を離れる。
後ろからは「がんばるんじゃぞー! 負けちゃいかんぞー!!」というおじいさんの声が聞こえてきた。