第9章 眠らない街~トレノ~
立派なカードスタジアムを通り過ぎ、水面に映るキラキラとした光を目で追いながら、回廊を歩いている時のこと。
ドン、と後ろから強い衝撃がきた。
「わっ……」
よろめいていると、すぐ横を身体の大きな男が走っていき、目の前の脇道に消えていく。
それはあっという間の出来事だった。
「おい、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫だけど……あれ?」
ダガーは腰のあたりを手でさぐる。
気づくと、腰袋が一つなくなっていた。
「今の、ひったくりだわ」
「ええ!?」
急いで男の消えた脇道を確認してみるけれど、すでに男の気配はない。
酔っ払いが地面にうずくまっているだけだった。
「あそこの人にどっちに行ったか聞いてみようか?」
「ううん、大丈夫、大したものは入ってなかったから……でもなんだか、物騒な街ね……」
目の前に伸びる道は、じめじめとした薄暗さが漂っている。
そう感じるのはなんでだろう。
単純に、今まで見てきた水辺のライトアップが美しく華やかだった、というのはあるかもしれないけど。
必要最低限のみの電灯が灯るこの道は、それと比べてしまうとみすぼらしい。
清潔さも欠けていた。
「もしかして、この先はスラム街なのかしら」
「スラム街……」
「マーカスは白金の針は貴族が持ってるって言ってたわよね…………こっちは後で調べましょうか」
それだけ言うと、ダガーはもう用はないという風に、そこから視線を離した。