第9章 眠らない街~トレノ~
それから何度かモンスターと戦うこと数時間。
すっかり日は暮れ、あたりが真っ暗になった頃、前方にぼんやりとした明かりが見えはじめた。
さらに歩を進めれば、その姿は明らかになる。
門番の兵士に声をかければ、ギィーと音を立てながら門が開く。
中に入ると、水辺を中心とした美しい街並みが視界に広がった。
「姫さま、ここが貴族の街トレノであります」
へぇ、トレノって貴族の街なんだね。
入ってすぐの広場は高台にあるらしく、街を一望できるんだけど、たしかに見える建物は立派なものが多いように感じた。
「貴族なんて一部だけっス……夜が長いっスから、盗賊にはもってこいの場所っス」
「貴様らのような者どもがこの夜の都をおとしめたのだ!」
「そんなのどうでもいいっスから、早いとこ白金の針を貴族の屋敷からかっぱらって来るっス」
「かっぱらう、とは何と下衆な! このスタイナーの目の黒いうちはそのようなことはさせないのである!」
スタイナーとマーカスの言い合いをよそに、ダガーはお兄ちゃんに話しかける。
「タイチ、見てあそこ。オープンカフェかしら……行ってみましょ」
「おい、この二人置いてっていいのか?」
「スタイナーに付き合ってたらいつまでたっても探しに行けないわ。ほら、はやく」
お兄ちゃんの背中を押して急かすダガー。
なんだか楽しそう。
お兄ちゃんも仕方ないな、って顔で笑ってる。
さっそく回廊を渡って下りていくと、先ほど遠くから見えたオープンカフェにたどり着いた。
豪華に着飾った、いかにもな貴族たちが優雅にティーカップを傾けている。
どうやら水辺の向こう側で何か大会が行われているようで、彼らはそれを観戦しているらしい。
「えっと……会員制オープン・カフェ、カルド・カルタだって」
席に座っている婦人が、私達を不快なものでも見るような目でちらりと見た。
……なんだか嫌な感じ。
そんな視線に物怖じせず、ダガーはウェイトレスに白金の針について聞き込みをしていた。
「申し訳ありません、私は存じ上げませんね」
ウェイトレスの返答に若干がっかりしつつ、初めからそんな上手くいかないか、と気持ちを切り替える。
とりあえず私達は、水辺沿いを歩いてみることにした。