第8章 遭遇
「あ、ぁア……がーネッとひメ……しょウ、キョ!!」
ギラリと光った3号の瞳がこちらを向く。
戦いはまだ終わっていない。
急いでプロテスの呪文を唱えはじめるけれど、待ったなしに3号はこちらに詰め寄ってくる。
「くそっ、このバケモノが!!」
私を隠すようにお兄ちゃんは立ち上がったけど、手に持ったダガーはわずかに震えている。
「ぐっ……!」
狂ったような連打。
武器を持ったばかりのお兄ちゃんではすぐに体ごと吹き飛ばされてしまう。
「お兄ちゃん!!」
岩壁に叩きつけられたお兄ちゃんはそのまま起き上がらなくなってしまった。
目の前いっぱいに3号のコートの青が広がる。
もうだめ……。
ロッドをぎゅっと握りしめたとき、目の前の胸元から鋭い剣先が突き出た。
爛々と光っていた3号の瞳が光を失い、ぐったりとした体は剣から滑り落ちる。
そこには大きく息を吐き出したスタイナーがいた。
マーカスもこちらに駆け寄ってきている。
「姫さま!! ご無事でありますか!!」
「うん、私はなんとか……でもお兄……タイチが!!」
急いで駆け寄ってケアルを唱えるけれど、お兄ちゃんは目覚めない。
慌てる私を安心させるように、お兄ちゃんの首元に手を当てたスタイナーは頷いた。
「気を失ってはおりますが脈は正常であります。しばらく安静にしていればそのうち目を覚ますでしょう」
「そうなの? ……よかった」
「しかし、黒のワルツとやらは、いったいなんのためにあんな姿になってまで……」
一連のやり取りを眺めていたマーカスに、「姫さま……」と呼びかけられた。
「……ブルメシアが黒魔道士兵におそわれたそうっス……さっきの敵と同じような黒魔道士兵たちに、ブルメシアの人々は……」
「いったい誰がそのようなマネを……」
「本気でそんなこと言ってるっスか!?」
「どういう意味であるか!?」
「スタイナー……やめて、もうわかってるから……」
「姫さま?」
スタイナーは首を傾げている。
本気で、ブラネ女王は無慈悲な戦争をしかけていないと思っているんだ。
『もうすぐアレクサンドリアね……城に向かって、お母さまにお会いして……きっと、わかっていただけるわ』