第8章 遭遇
「それじゃ今度は俺が聞く番っス」
マーカスは、山頂の駅からずっと考え込んでいるお兄ちゃんにちらりと視線をやった。
「この人は誰っスか?」
「彼は成り行きでアレクサンドリアに一緒に行くことになったの。タイチっていうのよ」
目深にバンダナを巻いているせいか、マーカスの表情は読めない。
彼は再びこちらを向く。
「ジタンさんはどうしたっスか?」
「……リンドブルムでわかれたわ」
「ずいぶんあっさりしたもんスね。用が済んだら、今度は別の男に乗り換えっスか?」
その言葉に一瞬でカッとなった。
「そんな言い方はないでしょ!? 今のはタイチにも失礼だわ!」
実際に声を出すことができなくてよかった。
そうじゃなかったら、ダガー以上に声を荒らげていたかもしれない。
ジタンは大切な存在だ。
彼なしでリンドブルムに行けたとは思えない。
彼の笑顔を思い出す。
くれた言葉を思い出す。
ジタンが使い捨ての男だなんて、考えるだけで気分が悪い。
「そうっスね、俺の言い方が悪かったっス。でも、お姫さまにとって、ジタンさんってそんなものだったっスか」
マーカスは吐き捨てるようにそう言うと、くるりと背を向けた。