第8章 遭遇
結局しぶしぶ注文を一つに減らしたダガーだったけれど、まんまるカステラを受け取ればすぐに嬉しそうに笑った。
一口かじれば、その顔は花が咲いたようにほころんだのだろう。
こちらを見ていたお兄ちゃんの顔が赤らんだ。
「……美味いか?」
照れ隠しなのか、お兄ちゃんが視線をそらしつつ尋ねた。
ちなみにまんまるカステラはめちゃくちゃ美味しい。
私にも味は伝わるから、口に入れたときのほどよい甘さだとか、ふわっとした食感だとかがわかる。
「うん、美味しい! タイチもやっぱり一口食べない?」
まんまるカステラを差し出すダガーに、お兄ちゃんはものすごい勢いで首を振った。
「いや、大丈夫! ダガーちゃんが美味しそうに食べてくれればいいから!」
「……そう?」
首を傾げるダガーに、お兄ちゃんはふぅと息を吐き出している。
お兄ちゃん……本当にダガーの好きなんだ。
自分に向かって顔を赤らめられたりするのは正直気色悪い以外のなにものでもなかったけど、こうやってお兄ちゃんが誰かに対して右往左往しているのなんて初めて見る気がする。
ダガーと上手くいってほしいなぁ。
でもダガーってお姫さまだし、異世界人だし……それに身体には私が入ってるしなぁ。
けっきょく行き着く先はそこなのだ。
リンドブルムでの会話を思い出す。
トット先生……だっけ。
ダガーの元家庭教師で、とても博識な方らしい。
トット先生ならこの身体を元に戻す方法を知っているのかな。
お兄ちゃんの事は応援したいけど、それが上手くいくのはまだまだ先のことになりそうだなぁ、と私はそんなことを考える。