第8章 遭遇
「あたしはマリーって言います」
「えっと……俺はタイチです」
お兄ちゃんはどこか緊張した面持ちで名乗った。
まさかお兄ちゃんまでこの世界に来てしまっていたなんて……。
でも見たところ、私のように身体が変わっている様子はない。
耳にかかるかかからないかくらいの黒い短髪。
相変わらず眠たそうな目。
落ち着こうとする時に耳の後ろあたりを触る動作まで、間違いようがなくお兄ちゃんだった。
ただ、私は今までこんな風に緊張されたことなんてなかったから、お兄ちゃんとのぎこちない空気が新鮮ではある。
私から見るお兄ちゃんというのはいつも自由気ままだった。
そういう意味ではジタンと似ているかもしれない。
小中高と続けていた野球も「する理由がない」とかで大学生になってぱったり辞めてしまったし。
ただ、変なところで凝り性で執念深くて、お兄ちゃんのことは典型的なB型人間だと私は認識している。
お兄ちゃんはちらっとスタイナーへ視線を動かすと尋ねる。
「あの、そっちの鎧の人は座らなくていいんすか」
「自分は大丈夫である」
お兄ちゃんはふーんと顎をわずかに上げると、「なんか、お姫さまに付き従う兵士みたいだな」とこぼした。
妙に勘も鋭いんだよなぁ。
ダガーがギクリと身体を揺らす。
「それより」と手を打ち合わせたのはマリーちゃんだ。
「お二人はトレノに行くんですよね? だったら、ほらタイチさん、アレクサンドリアに行きたいって言ってたじゃないですか。これはチャンスですよ」
「あー……まあ、たしかに」
お兄ちゃんは少し悩んだ顔になる。
私達もそうするように、ここからアレクサンドリアに行こうと思うと、一度トレノに行って飛空艇なり移動手段を得るのが早い。
「そうだよなぁ」と小さく呟くと、お兄ちゃんはよしっと顔を上げた。
「実は俺探してる人がいて、大きい街に行きたいんだけどモンスターって言うのを倒せる自信がなくてずっと足踏みしてて。本当はアレクサンドリアってとこまで行きたいんだけど、トレノまででもかまわない。よかったら俺も連れてってくれないか?」
ダガーは少し考え込むと、『レイナ……』と私に声をかけてきた。