第8章 遭遇
「おいおい、大丈夫か?」
連れの男が立ち上がって、そこらを転がっていくビンを追いかけている。
コロコロと転がってきたビンの一つが、こつりとダガーの足に当たった。
かがんでビンを拾うと、ベンチの手すりに手をつきながらダガーは立ち上がる。
「ああ、悪いね」
男がこちらを向いた。
顔を上げて、その男の顔を見た瞬間……
頭が真っ白になった。
……
……
……
……
……え?
男もまた驚いたように、それはもう私と同じくらいに驚いたように、いつもは眠そうにしている目を大きく見開かせた。
男の腕に抱えられていた三つ四つのビンが、ガラガラと床に落下する。
「わっ、ちょっと! タイチさん!?」
……そんな、嘘だ。
女の子がびっくりしたように男へ近寄るけれど、そんな事にも気づかないように、男はそこそこ端正な口元を半開きにして、彼もまた信じられないというように小さく肩を震わせていた。
そばに佇む女の子が目をぱちくりとさせている。
「……あの、どうしちゃったんですか?」
男は女の子に身体を揺すられると、ようやく我に返ったように目を瞬かせた。
「えっと、いや、悪い……ビン割れてなかったか?」
「それは大丈夫ですけど……」
女の子が怪訝そうに首を傾げている。
「あの……」
ダガーが控えめに声をかけると、男はあからさまにビクッと身体を揺らした。
質素な服から伸びる腕はほどよく筋肉ばっている。
「これ、こっちまで転がってきて……これは何かの薬なのかしら」
ダガーが尋ねると、女の子がとたんに瞳を輝かせた。
「そうなんです! あたしのお店で売ってるもので、それはいわゆるポーションなんですけど、仕入れ先を変えて効果が良くなったって最近話題なんですよ! まあ、あたしはただのバイトなんですけど、でもオススメなので、良かったらおひとついかがですか?」