第8章 遭遇
窓を流れる景色は間もなく一定の速度で落ち着いた。
比較的新しい線路は山の中を切り拓いて作られたもののようで、窓の外は延々緑が流れていく。
どうやら先に車内にいた男は女の子の連れだったらしく、二人の楽しげな会話の断片が耳に届きはじめた。
そんな二人を横目に、ダガーは確認するように尋ねる。
「頂上の駅に着いたら鉄馬車を乗りかえるのよね」
「そうであります。頂上に着いたら、アレクサンドリア行きの鉄馬車に乗りかえて、今度は山を下っていきます」
この鉄馬車というのは、リンドブルムとアレクサンドリアを繋ぐ乗り物なのだけど、二つで一対の乗り物となっている。
片方がふもとにある時片方は山頂にある、といったぐあいに二台の鉄馬車は引き合うように繋がっているのだ。
そのため山頂で鉄馬車を乗りかえようと思うと、今乗車しているのと同じだけの時間待たなければならない。
「山頂の駅には名物のまんまるカステラというものがあるようです」
この世界にもカステラってあるんだ。
久しぶりの日本を思い出す料理に、少し心が踊った。
この世界の料理レベルが日本より劣っているというわけじゃないけれど、主食にお米が出てくるわけでもない。
ふと日本食が恋しくなることはある。
そういう時は決まって、自分の今後についての不安も連れ添ってやってくる。
私はこれからどうなるのか。
元の世界に戻れるのか。
そもそもこの世界に来た際に、私は一度死んでいるようなもので。
自分の身体がない。
元の世界に戻るなんて、それこそ絶望的なことだと思える。
それでもこのままダガーの身体に居候し続けるわけにもいかないし。
彼女の事情が片付いたら、何か方法を探さないと……。
考えにふけっていると、ガタンと鉄馬車が大きく揺れた。
カーブに差しかかったのか、右に身体が引っ張られる。
「わわっ!!」
ゴロゴロとビンが転がってきた。
斜め前のボックスで女の子が荷袋をひっくり返してしまったらしい。