第8章 遭遇
『スタイナーはまだ見張ってるみたいだし……今の内に、元の服に着替えようかしら』
私が『それがいいね』と同意すると、彼女はいそいそと服を脱ぎはじめた。
ここは薄暗い通りのようで、スタイナーが見張っていることもあってか人通りは全くない。
袋が下ろされた場所がそもそも木箱の影になっているし、ここで着替えても問題はなさそうだね。
「スタイナー、もういいわよ」
ダガーが声をかけると、通路の端で賑やかな通りを睨んでいたスタイナーが振り返った。
その顔はぱぁっと輝き、急いでこちらに駆け寄ってくる。
「姫さま……!」
私の居候させてもらっている彼女は、ダガーという偽名を使ってはいるけれど、アレクサンドリア始まって以来の美女と噂される王女ガーネット姫。
目の前でびしりと敬礼をしているこの鎧の男はお付きの兵士さんだ。
「スタイナー!」
ダガーは咎めるように彼の名を呼ぶ。
スタイナーは初めは何だろうという顔をしていたけれど、すぐに「あ!」と声を上げると言い直す。
「……ダガー殿」
私達はリンドブルムにて指名手配中の身だ。
指名手配とはいっても特別に悪いことをしたわけではなく、行方不明の彼女をあくまで保護するためのものではあるけれど、城から捜索が出ているのは確かでとりわけ公的機関を使用するには不都合がある。
ここ南ゲートなんかは、まさにそうだろう。
さきほどまで荷袋の中で揺れていたのも、国境の意味合いもあり入場に審査のある南ゲートへ侵入するためだったりする。
「南ゲートを越えてトレノに着くまではそう呼んでね? それから敬礼もダメ!」
「そうでありました……トレノまでゆき、城へ戻る手段を得るためにも気をつけるであります」
スタイナーは神妙に頷いた。