第7章 交差する思い〜リンドブルム〜
「毒じゃないの。ジタンにもらった薬よ。こんな風に使うつもりはなかったんだけど」
ダガーは首を振って、それからスタイナーへ向き直る。
「スタイナー、わたしは自分にできることをしたいの……みんなに勝手に決めてほしくない……」
「それは姫さまの身を案じてのこと!」
「それはわかっているわ……」
「わかってはおられません!!」
スタイナーの声は思ったよりも強いものだった。
二つ返事とまではいかなくとも、すぐに了承してもらえるものだと思っていたので少し驚く。
「自分は戦争の悲惨さを知っています。命令でも、お受けするわけにはいきません!」
スタイナーはきっぱりと断る。
しかし、ダガーだって半端な気持ちでアレクサンドリア行きを決断したわけじゃない。
これで諦めるわけにはいかない。
「もしブルメシアを襲ったのが、アレクサンドリアだとしたら……今度の戦争はたくさんの人が死ぬことになるわ。お母さまだってわからない……でも、わたしはアレクサンドリアの王女。わたしにしかできないことがきっとあるはずよ! もう、お母さまが死ぬのを見たくないの……!」
スタイナーは目を閉じ、長考する。
迷っているようだったけれど、しばらくして目を開けると決心するように頷く。
「……姫さまのお気持ち、このスタイナー、よくわかりました。自分は姫さまについて行くであります!」
「ありがとう、スタイナー」
ダガーはほっと呟く。
スタイナーにここで頷いてもらえなかったら、この計画は破綻も同然だった。
「さあ、みんなが起きるまえにリンドブルムを出ましょう!」
ダガーは部屋から出る前に、目についたとばかりにジタンの元へしゃがむ。
「ごめんね、ジタン」
これでジタンともお別れなんだ。
私は彼の顔をしっかり覚えておこう、と目を凝らしたけれど、彼の顔はすぐに離れていった。
「さあ、早く!」とダガーの急かす声が響く。
私は未練がましく残っていた彼らへの思いを振り落とし、アレクサンドリアへの道を急ぐ。