第7章 交差する思い〜リンドブルム〜
「シド大公……ご無礼をお許しください……! 我が王から……火急のことづてでございます」
尋常ならざる雰囲気に空気が固まる。
代表するようにシドさんが歩みよった。
「なに、ブルメシア王から?」
血だらけの男はブルメシアの兵士なのだろうか。
ネズミのような耳や突き出た鼻、それにフライヤさんと同じ細長いしっぽを持っていることから、ブルメシアの民であることは間違いなさそうだ。
オルベルタさんが、ブリ虫の姿であることを気にしたけれど、シドさんは「この男は視力を失っている」と気にせず男に近寄る。
「うむ、聞くブリ!」
「“我が国は、謎の軍の攻撃を受けておる! 戦況は極めて不利、援軍を送られたし!”敵はとんがり帽子の軍隊でございます……」
男の放った言葉は、その場の空気をさらに凍らせるのに充分なものだった。
ビビがふらふらと後ずさる。
「ブルメシア殿は古くからの盟友、ただちに我が飛空艇団を送るブリ!」
「あ……ありがたきおことば! 我が王もきっとよろこばれましょう」
男はわずかに表情を明るくさせると、ごふりと血の塊を吐き出す。
「は、早くこのことを…………お伝え、せねば……」
がくがくと身体を揺らすと、プツリと糸が切れるように男はその場に倒れこんだ。
「いかん! 早く、その者の手当てを!」
「だめじゃ……きずが深すぎる。ここに来るのがやっとだったのじゃ」
私に心臓があったのだとしたら、ばくばくと早鐘を打っていただろう。
今ここで人が死んだのだ、と思うと落ち着けなかった。
同郷の者が死んだであろうフライヤさんは、事切れた男の傍らにしゃがむ。
「なにがあったというのか……」
彼女は俯き顔を歪めた。