第7章 交差する思い〜リンドブルム〜
ガーネットside.
部屋に設置された階段を下り、見張りをしている兵士に声をかけると、朝食を用意してもらえることになった。
リンドブルムの美味しい朝食でお腹をふくらませ、そのお腹が休まった頃、シドおじさまとの謁見が可能だと告げられる。
リンドブルムに滞在している間は、中層にある客間をわたしは使用することになるようで、最上層まで例のリフトに乗って移動する。
大公殿下の間へと足を踏み入れると、昨日とは違い、その玉座にはすでにその人物の姿があった。
わたしは丁寧な礼をしてから、告げる。
「そのヒゲは、おじさまなんですね?」
目の前に座っているのは、昨日のブリ虫であった。
ただよく見てみると、口元には立派な白ひげがついており、上向きにカーブを描くその特徴的なひげから、このブリ虫こそがシドおじさまなのだとわたしは確信していた。
「うむ、シド=ファブールであるブリ」
やっぱり。
普通のブリ虫は喋ったりしない。
「昨日は申し訳ありませんでした」
「いや、このような姿では姫が驚いてひっくり返るのも無理ないブリ」
おじさまのその言葉に、わたしはほっと息をつく。
「しかし、なぜそのような姿に……」
わたしが疑問の声をあげれば、玉座の傍らに控えていたオルベルタ様が「私からお話ししましょう」と、ことの顛末を語りはじめた。
半年ほど前の晩、何者かがこの城に忍び込み、シド大公殿下の寝込みを襲ったらしい。
オルベルタ様や見張りの兵士もかけつけるのが一歩遅れ、おじさまはブリ虫の姿に変えられてしまったようだ。
そして、おじさまの妻であり、大公妃であるヒルダ様は連れ去られていたのだと言う。
「なんてこと……」
「元の姿に戻る方法も見つからず、困っておるブリ」
『それに、わざわざこの姿にしなくてもいいのにね』
レイナが辟易(へきえき)するように呟く。
そんな彼女にわたしは苦笑しつつ、シドおじさまへ改めて向き直った。
「おじさま、今回はお母さまのことと……それともう一つ相談事があってここへ参りました」