第2章 家出騒動
ガタンと音がすると、とたんに色とりどりの花火が夜空に打ち上がる。
軽快な音楽とともに姿を現したのは、劇場艇プリマビスタの舞台だった。
アレクサンドリア城前に泊まった船そのものに劇の舞台があるのだ。
広場の座席、屋根の上から歓声が湧く。
ものすごい盛り上がり。
音楽も劇場艇に乗った楽団の生演奏で、臨場感がすごい。
ブラネ女王様も思わずといったように席を立って扇子を揺らしている。
でもその気持ちが分かる。
劇なんて見たことがなかったけど、私までワクワクしてくる。
高鳴る胸を抑えていると、凝った衣装の男が舞台に出てきた。
「さあて、お集まりの皆様。今宵、我らが語る物語は、はるか遠いむかしの物語でございます。
物語の主人公であるコーネリア姫は、恋人マーカスとの仲を引き裂かれそうになり……一度は城を出ようと決意するのですが、父親であるレア王に連れ戻されてしまいます。
今宵のお話は、それを聞いた恋人のマーカスがコーネリアの父親に刃を向けるところから始まります」
『これ、エイヴォン卿の“君の小鳥になりたい”だわ!』
ガーネットが興奮したように声を上げた。
彼女の知っている物語なのだろうか。
『わたくしこのお話とても好きなの。楽しみだわ』
なるほど、さすがガーネットの誕生日。
きっちりリサーチしてあるんだ。
「それでは、ロイヤルシートにおられますブラネ女王様も、ガーネット姫さまも……そして貴族の方々も、屋根の上からご覧の方々も、手にはどうぞ厚手のハンカチをご用意くださいませ」
男のお辞儀と共に拍手がこだまする。
もちろん私も手を鳴らした。
掴みはもうバッチリで、ワクワクが止まらない。
そして劇は始まった。