第6章 放たれた刺客〜カーゴシップ〜
「な〜んか変だな……」
そんなジタンの呟きを聞いている時だった。
ブオンッ!
原っぱを鋭く撫ぜるように、風が向かってきた。
「……何かこっちに来るぞ!!」
風を防ぐためにかざした腕の隙間、近づいてきた物は瞬時に消えると、私達の背後に風と共に現れる。
「なに?」
乱れた髪を軽く払い、振り向くと、そこにはとんがり帽子をかぶった何者かがいた。
背中から羽根が生えており、空中に浮かんでいる。
「女王陛下が城でお待ちだ!」
とんがり帽子と上着の隙間。
漆黒の中に光る白い瞳が一対、こちらを見詰める。
「……おまえら、城のやつだったのか!?」
「おまえら? 何のことであるっ!?」
「氷の洞窟でおっさん達が倒れてたとき、似たヤツに襲われたんだ」
私達が氷の洞窟で倒れてた時?
っていうと、あの吹雪で寒かった時か!!
あの時はちょうどダガーと初めて入れ替わって、私はその記憶しかないけど……ジタンは戦ってくれてたんだ。
「1号をたおしたのはきさまか? 我が名は黒のワルツ2号! 全ての能力が1号の上をゆく。抵抗など、考えるだけムダだ!」
2号さんは空中でククククと肩を揺らして笑うと、こちらに向き直った。
「姫よ、おとなしく従うのだ!」
『嫌です! わたくし帰らないわ!』
「……私、帰りません!」
きっぱり断る。
リンドブルムまであともうちょっとなんだから、邪魔しないでほしい。
そもそも2号さんは、本当に城からの追っ手なのだろうか?
一国の姫君に対してずいぶんと強引だ。
あの優しかったベアトリクスが懐かしい。
どうせ迎えに来るのなら彼女が来てくれればいいのに。
まあ、帰るつもりは毛頭ないけど。
「従わないつもりか? つらい目にあうぞ?」
「待たれよ! 姫さまをお連れするのはこのスタイナーの任務である!」
そうだった、スタイナーで十分じゃん。
目の前の2号さんは再び肩を揺らして笑う。
「そんなこと知るか! 我が任務のじゃまはさせん!! 姫よ、周りの者を倒すまで眠って待っているのだ!」
「えっ!!」
素早い2号さんの動きに私はろくな反応もできず、その手のひらから流れでるグニャグニャしたものを頭にくらう。
頭から侵入してくる強い眠気に抗えず、私はその場に崩れ落ちた。