第1章 冬
香苗は床を蹴って、キャスターでゴロゴロと椅子ごと移動した。
啓太の隣まで来ると、ぴたりと止まる椅子。
「・・・どうしました?」
啓太が尋ねると、香苗は口角を上げてちょっぴり微笑む。
「べつにー?」
再度はぐらかす香苗。
「今日の香苗さん、なんか変ですよ?」
「あたしはいつだって変人だよー。」
「あぁ、否定出来ません。」
「原田も言うようになったねー。」
冬の空気のように乾いた笑い声は、あっという間に溶けて消えてしまった。
ただ何となく見つめ合うだけの2人。
機械が低くうめく音だけが部屋に響いた。