第1章 冬
啓太はパソコンの電源を入れる香苗をぼんやり眺めた。
「香苗さん、どうして来たんです?」
時計はもう2時を過ぎようとしていた。
よっぽど急な用じゃない限り、家で作業するか、メモして寝るかと言った時間帯なのだけれど。
俺が呼んだから来た?
いやまさかそんな、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん、なわけないって。
「んー?ちょっとねー。」
香苗は言葉をはぐらかしてキーボードに指を這わせる。
しばらく何か打ち込むが、大半をバックスペースキーで消してしまう。
クリック、タイピング、またクリック。
マウスを右に左に操作して、今度はダブルクリック。
結局大して作業する事も無く、香苗は椅子に大きくもたれかかった。
「何でも無いんだけどねー。」
床を蹴って、椅子ごとくるくると回転する香苗。
回転が止まると香苗もまた、こちらを見ている啓太をぼんやり眺めた。