第1章 冬
ガチャッ。
遠慮がちに研究室の扉が開く音。
啓太は突然の来客に顔を向ける。
そこには、来るはずの無い香苗の姿が。
「まだやってたの?」
「香苗さん!?」
なんでここに!?
啓太が驚いて起き上がると、さっき丸めた研究結果が机から落ちた。
ぱさっと乾いた音で床に着地するのを2人して目で追いかけた。
「・・・上手くいかなかった?」
「あー・・・はい。」
笑う元気も出ない啓太は、老人のような動きで紙を拾い上げる。
「この通り。前と変わりません。」
広げて渡すと、香苗が研究者の目つきでそれを読み取った。
「そっかー、そりゃ残念。」
香苗は紙の皺を丁寧に伸ばして、啓太の机にそっと戻す。
「でもこれだって立派な研究結果なんだから、ちゃんと大事に残しときなさい。」
「ふぁーい。」
香苗は「よろしい。」と微笑むと、啓太とはす向かいの自分の席にカバンを下ろした。