第1章 冬
香苗からの返答は少し時間を要した。
「とりあえず、頭上げて。」
降って来た声は、優しさなんてひとかけらも無いような声だった。
冷たい、まるで感情の無い声。
聞いた事の無い香苗の声に啓太は驚く。
と同時に、自分がいかに楽観視していたか啓太は恥じた。
・・・香苗さんが優しいからって、もしかしたら許されるとでも思ったのか?
あんな事をしたんだ。許されるはずないじゃないか。
ぐっと覚悟を決めると、頭を上げて香苗と向き合った。
啓太の背筋が凍り付いた。
ぞっとするほど、香苗はいつもと変わらない笑顔だった。