第1章 冬
ようやく涙が止まった啓太は、鼻をかむと香苗と向き合った。
「すみませんでした。」
頭を下げる啓太。
「変な事言ったのは忘れてください。」
告白を忘れてくれ、なんて都合のいい言葉である事は分かっていた。
そもそも最初は告白なんてしないでおこうと思っていた。
けどもう、弱くなった心で溜め込むのは辛かったようだ。
研究も上手くいかない。ろくに寝ていない。嫌われているんじゃないかという恐怖。好きじゃなくなったとはいえ失恋した寂しさ。
告白することで弱音を吐きたかったのかもしれない。
やり場の無い恐怖を受け止めて欲しかったのかもしれない。
でも分かってる。そんなのあの日と変わらない。
今はあの日の事を謝るのが先だ。
「あの日の事とか、今まで謝らなかった事とか、本当にすみませんでした。」