rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第10章 rain of fondnessⅤ
「ナッシュ・・、ひゃ・・・ぁ・・」
電車を降り、進み慣れた道を行く。
着いた街はいつもの風景が目に見えると、名無しはまた無駄に胸をどきどきとさせた。
そうなるのはまあ必至だ・・・部屋に着き、玄関を通れば朝まで帰れない。
今はまだ公共機関が動いていても、もうそれを使って帰ることは出来なかったのだから。
次に地下鉄に乗るのは、どのみち日付が変わってからだ。
『ん・・・っ、・・は・・・ちゅ・・』
ナッシュは名無しを玄関に通すと、戸を閉めた瞬間にきつく彼女を抱き締めた。
背後からの抱擁は耳をやんわりと食み、すぐに振り返らせれば、キスをする以外の選択肢はなかった。
散々抱き合った・・・とはいえ、空いた二週間という名の溝を埋めるには、まだまだ足りないと言わんばかりに交わされる激しい口吸い。
名無しがそのとき足元に落としたのは自身の鞄だったけれど、覚えのあった重なる既視感に対し、気持ちはとても楽だった。
『ん・・、ナッシュ・・・っ、は・・ッ』
『・・・名無し』
『・・ッ・・・な、に・・?』
『・・・ハァ・・、・・・・抱きてえ――』
『ッ・・・・』
直球を投げることの、どれだけ珍かか今なら分かる。
まるで胸の奥を狙い撃つかのような。
スッと抜ける、甘くまろやかに感じる、鼓膜を震わせるナッシュの声。
それは全身に鳥肌が立つほどに、そして、下着の中がじんわりとなったことを感じるほどに、彼が囁いたその一言は、名無しを微動だにさせなかった。