rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第10章 rain of fondnessⅤ
食後、名無しとナッシュが店を出てから、地下鉄への階段を降りきった時のことだった。
改札を入り、左右に分かれたホームに繋がる、更に下へと進む為の階段手前で交わされた言葉に、名無しは目を見開きながら一切の動作を数秒間停止させた。
それはナッシュに対して、何を言っているのか?という彼女の意志表示だったのだけれど、当然ナッシュにとっては、口にした言葉はただの冗談にすぎなかった。
相変わらず、名無しが自身のジョークに耐性を持てていないことに対し口を開けて笑う。
ナッシュが名無しの帰路を差す仕草をしていた親指を下ろすと、直後その腕は細い腰へと回された。
身体に触れられたのはほんの僅かだった。
が、少し前のクラブハウスでの出来事を脳裏で思い浮かべ、名無しは多少驚き混じり、触れられることそのものへの嬉しさを、ひとり密やかに噛み締めていた。
『・・ッ・・・』
それは、早くナッシュの部屋に行きたいという彼女の気持ちが強まった瞬間でもあったのだ。
帰さないと言われたことに、感じた身体が静かに疼く。
名無しの目元には恍惚が滲み、頬は赤く、彩りが広がっていた。