rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第9章 rain of fondnessⅣ
施設を出てから暫くのあいだ、名無しはナッシュの後ろをずっとついていた。
が、ふいに出された話題が自分の旅行のそれだったゆえに、なんとなく歩幅を広げると、すぐに彼の隣に移った。
今まで、こんな自然に会話してきたことがあっただろうか。
思い出される記憶の中に、そんなものはひとつもなかった。
問われてきたことといえば携帯の番号やアドレス、名前、次の休日。
身体のこと、そして行為の最中の・・・いやらしい会話ばかり。
関係を重ねる度にナッシュは自分のことを次第に聞いてくるようにはなっていたけれど、旅行の内容まで具体的に聞かれたことに名無しは驚いた。
嬉しかったのは、どんな過去を思い出そうとも、やはり今ほど自然体で彼の隣を歩いていた瞬間はなかったということだった。
「食って・・って。一緒に・・・?」
「あぁ?他に誰がいるんだよ・・・」
「うう・・・っ、・・・」
未だ大いにぎこちなさは含んでいたものの、少しだけ、ほんの少しだけ・・・。
名無しはナッシュの、眠っている時以外の素の姿を垣間見た気がしていた。
ただ狼のように、獣のように、ベッドで自分を抱く以外の。
コートで走り回る、一人の名の知れたプレイヤーとして、ボールを追いかける以外の。
本当は一番見てみたいと感じた、日常に溶け込んだその姿を――。