rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第2章 rain of fondness2
「・・・・はぁ・・」
終わってみればあっという間の旅だったと感じる。
時間の流れた、今は二週間が過ぎたあとのことだ――。
「・・・・・・」
ナッシュと別れたその後、名無しは旅行に出ていたあいだは、面白い程に彼の存在を思い出すことがなかった。
きっちりと気持ちを切り替え、予定通り出発日に自宅を発つ。
最後まで友人らとの楽しい時間を過ごすと、同時に、存分に充実感も味わっていた。
ただ、そんななか笑いさえ起きそうになったのは、日程をすべて終えた瞬間のことだった。
自分たちの住む街に帰って来て、皆と別れた途端に押し寄せた寂寥感が、彼女を一気にナーバスにさせていた。
「・・・・――」
思い出さなかったのは本当だ。
けれど嘘だ。
ふざけた二極する気持ち、両方の事実が名無しを葛藤させ、その心を蝕み、顔に苦笑を浮かべさせる。
旅行のあいだは馬鹿みたくはしゃいで、思い出を作って、それを記録として携帯にいくつもの写真を残した。
小さなその機械に触れる度にほんの少しずつ胸が苛まれていたのは、一度でも、連絡や着信の履歴はないかと、淡すぎた期待を抱いてしまった所為だろう。
なにより、発ったその日から二、三日は気にならなかったけれど、日が経つにつれて名無しが持たずにはいられなかった違和感がひとつ。
それは、身体に残されたナッシュの匂いが環境の変化で消えゆき、いつしか馴染み好むようになった、彼のコロンの香りすらも感じられなかったことだった。
「・・・はぁ」
帰宅早々、できた旅の思い出を振り返れば振り返る程、どれだけ自分の気持ちが偽りだらけで、強がっていただけかということも思い知る。
ナッシュのことをたった一度だけ色濃く考えた瞬間があった名無しは、そのときの状況をピンポイントに回想し、つくづく自分のことを馬鹿だと感じていた。
『・・・ナッシュ?!』
思い浮かべるは、とある観光地。
現地ですれ違った見知らぬ男性が、ナッシュと同じコロンを付けていたゆえに、無条件で振り向いてしまった瞬間のこと。
なんとも、そんな自身にはほとほと呆れ、渇いた笑いが零れるばかりだった。