rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第1章 rain of fondness
それは出かける二日前のことだった。
出かけるとは言ってもただの外出ではなく、この場合は名無しが旅行に、という意味だ。
ナッシュの部屋で肌を重ね、事後のシャワーを浴び、帰り支度をしている際に重い口を開けた名無しは、彼にその事実を告げていた。
わざわざ日程を報告していたのは、期間中呼び出されるのを防ぐため。
旅先で楽しんでいるときに携帯が鳴れば、一気に気持ちが沈むと思ったのは当然のことだった。
もっとも、今の名無しにとっては、理由はそれだけではなかったのだが。
メールなり、着信なり、遠くの地でナッシュから連絡があれば、きっと寂しさを募らせないようにする方が無理だと思ったのだ。
屈辱の中に混ざる、純粋な慕情が芽生えたゆえに。
それほど今は、彼に依存心を抱いてしまっていた。
『ナッシュ・・・・ん・・っ』
『ん・・・。――・・二週間か。寂しくなるな・・・』
『!・・・え・・?・・・、や・・ッ』
『ハンッ・・・、なんて言うとでも思ったかよ?釣りやすい女だぜ、まったく』
『、――・・や・・・ん、あ・・――ッ』
下着に手を伸ばし、インナーのキャミソールも既に着た後だった。
どのタイミングで旅行に出かけることを言うのが正解かなんて分からなかったし、どのみち何処で言っても、こうなる予感はしなくもなかった。
名無しはキャミソールの中にナッシュの手が割り込むのを許し、背中に這う彼の指が、折角留めた下着のホックを外す感触に頬を赤らめた。
唯一正解だったと思うのは、出かける前日でなく、前々日であるこの機に言ったことだろう。
ナッシュの腕の中に閉じ込められて、再びベッドに身を寄せることになっても、焦る必要がなかったことは名無しにとって大きかった。
『・・・・・――』
そして、帰るぎりぎりまでナッシュに抱かれていたことは、どうしても嬉しくて仕方なかった。
内に秘めた口に出来ない本音だったけれど。
声に出したそれは抗う音色そのものだったけれど。
心身に刻み残された彼の跡を纏い、名無しはナッシュと別れると、その後二週間は一切の連絡を絶った。