rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第43章 powder snow
吐く息が白いと、本格的に冬が来ているのだなあと思う。
本来寂しいと感じるようなこんな寒い季節、浮かれた気持ちでいられるのは、いま自分が幸せだからだろう。
そう思えるときが来るなんて、最初は思ってもみなかった。
「えっと……」
待ち合わせまでのあいだに名無しが立ち寄ったのは、どこの街でも見かける人気のカフェだ。
店内に入って少しばかり並んだ列、自分の番になれば顔を上げ、大きく掲示されていた看板メニューの一覧を見つめる。
飲みたいなと思ったフレーバーとサイズを店員に告げ終えると、名無しはそのとき、背後に大好きな香りを感じ、同時にその場で振り返ろうとした。
「あとホットもひとつ。サイズはラージな」
「!……びっくりした…」
「居ねえと思って見渡したら、此処で突っ立ってんのが見えたんだよ……待たせたか?」
「ううん……私が少し早かっただけだから…、何か飲みながら待とうかなって……」
「なら飲みながら行きゃあいい……今日も寒いからな」
振り返ることができなかったのは、その身は肩を背後から抱かれた所為。
控えめな重みが身体に巡り、香りを強く感じたのは、香水が手首に多くふられていたからだろう。
耳元で聞こえた追加の飲み物を注文するその声色ひとつにまでときめいて、それは何となく、対面していたスタッフにまで伝染しているような気がした。
だから名無しはいい意味で妬いていたし、ほんの少し優越感のようなものも覚えていた。
わざわざ待ち合わせていた場所で辺りを見渡し、自分を探して、こうして見つけてくれる……そんなナッシュに、胸が高鳴らない筈はなかった。